国宝宝厳寺唐門他3棟保存修理事業

漆塗修理について

漆塗り
 日本の漆は、縄文時代の出土器物にすでに用いられているように、特有の光沢と耐久性・堅牢性のある素材として、長い歴史のなかで様々な技術が磨かれながら発展してきました。
 日本では建物に漆塗りが施された最古の例は奈良時代の宇佐神宮といわれ、同じく、平安時代創建の中尊寺金色堂は、内部に蒔絵・螺鈿(らでん)などを施した漆芸術の頂点を極める建物として知られています。以降、漆塗りは各時代の主要な建造物には欠かすことの出来ない高級な塗装として用いられてきました。
 建物への漆塗りは、その装飾性に加え厚い塗膜で覆うことで部材を保護する役割があります。15年くらい育ったウルシの木から採取された樹液は、空気中の水分との酸化反応により硬化し、硬化後は紫外線を除き、酸などの影響を受けません。漆塗りの工程は、下地として木地へ麻布を貼り、荒い下地から細かい下地まで何層もの塗(ぬり)、砥ぎを重ねて表面を平滑にします。仕上げには、漆に顔料等を混ぜた黒漆や弁柄漆、朱漆をはじめ、金箔を押す漆箔や、砂子・切箔などで文様を描く蒔絵などの表現があります。

漆塗り仕様

【本直し】 紫外線及び風雨が塗面に当たる箇所(断文、亀裂、剥離となって現れる)に対し、麻布着せ、地付け、切粉付け、錆付け、中・上塗を行う最も丁寧な仕様。建物の南面、西面、柱、縁板、高欄等に多く採用される。
【真掻合せ】 塗膜の破損や劣化で生じる断文、亀裂、剥離箇所が「本直し」よりも状態として軽い場合に用いる仕様。
建具、長押、台輪、丸桁など、極端な風雨や紫外線には曝されない箇所に主に採用される。
【掻合せ】 垂木廻りや斗供廻りなど、風雨や紫外線の影響をあまり受けない箇所に採用される。
【蝋色仕上げ】 上塗後、水砥ぎ、胴摺り、摺漆をして刷毛目なく鏡のように磨き上げる仕上げ。
光沢が一段と輝く。
【漆金箔押】 中塗後、箔下漆(黒・紅柄色)を塗布し、乾燥させ、摺漆後に金箔押を行う仕上げ。

施工難易度について

施工難易度について

写真:漆刷毛で格子戸を施工する様子

格子戸や蔀などの建具類や、彫刻へ漆塗りを行う場合は、角柱や羽目板といった平面に対しての施工と比較すると「施工難易度」が高くなります。
なぜなら、通常の各塗装工程に加え、形状に合わせて下地、砥ぎの工程で角を作っていくなど、その作業が一段と複雑で、材料も多く必要となるからです。

漆塗工程写真

※番号は「漆塗工程」の表を参照
2 旧塗膜を前カンナ、タタキ等で掻き落す

2 旧塗膜を前カンナ、タタキ等で掻き落す

3~7 節部や割れ目の補強のため、布を飼い込み刻苧を充填する

3~7 節部や割れ目の補強のため、布を飼い込み刻苧を充填する

8、9 下地を付け、布着せをする

8、9 下地を付け、布着せをする


12 布目を充填する

12 布目を充填する

8~20 錆を付け、下地肌の目を密にする

8~20 錆を付け、下地肌の目を密にする

24~29 中塗、上塗にて仕上げる

24~29 中塗、上塗にて仕上げる


漆塗工程

修理前の漆塗りの破損程度による修理工程(本直し、真掻合せ、掻合せ)を示した。
工程 資材・工具 摘要 本直し 真掻合せ 掻合せ
1 調査 カメラ・筆記用具 当初の仕様を確認する。
2 旧塗膜掻き落し 塗師手斧又は平鑿 老化亀裂の古塗装を落す。但し堅牢な箇所は保存する。
3 刻苧彫 丸鑿 節部・乾割れ部分・巾・深さ・状況に応じて溝彫りする。
4 生漆固め 生漆 生漆を浸透させ、木地を補強する。
5 飼い込み刻苧 麻布・麦粉・生漆等 刻苧彫り部分に麻布飼い込み。
6 刻苧 糊・麦粉・刻苧綿・木炭 同上に刻苧を充填する。
7 引込地 地の粉・水・生漆 同上の陥没を防ぐため、下地付けを行う。
8 下地付け 細目地の粉・水・生漆 塗装面に下地を付け、塗装面全体の肌の調整を行う。    
9 布着せ 麻布・麦粉・糊・生漆 主要部分に布を貼る。    
10 布目揃え 小刀・切粉 布節を裁ち、布境を切粉で均す。    
11 布荒らし 大村砥・その他 布をケバ立て下地の密着を図る。    
12 地付け 地の粉・水・生漆 布目を充填する。    
13 同研ぎ 金剛砥・大村砥・水 表面を研ぎ、荒らし整える。    
14 切粉付け 細目地の粉・砥の粉・水・生漆 切粉を付け、下地を平滑にする。  
15 同研ぎ 大村砥・水 下地肌を平滑にする。  
16 同固め 生漆 生漆を浸透させ、木地を補強する。  
17 荒し サンドペーパー 表面を荒し、錆の密着を図る。  
18 錆付け 砥の粉・水・生漆 錆を付け、下地肌の目を密にする。
19 錆付け2回    
20 同研ぎ 水・白砥 地肌の仕上げ。平滑になるよう研ぐ。
21 生漆固め (油煙炭・生漆) 錆肌補強。(黒漆塗では墨色付与)
22 同研ぎ 水・耐水ペーパー・朴炭 次の錆の密着を図る。
23 繕い錆 砥の粉・生漆 錆面の陥没を補正し、均一にする。
24 中塗 中塗漆 上塗下の補強。
25 中塗研ぎ 朴炭・水・耐水ペーパー 塗面を平滑にし、上塗の密着を図る。
26 化粧錆 砥の粉・生漆 微細な傷を拾う。
27 部分中塗 中塗漆 傷を拾った箇所のみ中塗する。
28 同研ぎ 朴炭・水・耐水ペーパー 平滑・密着を図る。
29 上塗 上塗漆(紅柄朱・黒・朱) 仕上げ塗り。(塗立て)
○漆塗りの手法として、黒漆塗・弁柄朱漆塗・本朱漆塗・紅柄漆塗等があり、その工程は上表に準拠する。
○上記工程の内、黒漆塗は、29.ころも中塗 30. 同研ぎ(28.に準ずる) 31. 上塗 となる。
○上表にない上塗直しの工程は、1. 旧塗膜古砥ぎ 2. 瑕拾い錆付け 3.同研ぎ 4.生漆固め 5.同研ぎ 6.中塗 7.同研ぎ 8.上塗(黒漆塗の場合は、8.ころも中塗 9.同研ぎ 10.上塗)となる。
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